音楽と法律の交差点

海外の音楽利用と著作権:独立系クリエイターが知るべき国際ルールと注意点

Tags: 音楽著作権, 海外著作権, 国際条約, 著作権管理, デジタル配信

はじめに:国境を越える音楽と著作権の課題

インターネットが普及し、音楽活動や動画制作は国境を越えて行われるようになりました。海外の楽曲を自身のコンテンツに取り入れたり、制作した楽曲を世界中のリスナーに向けて配信したりする機会が増えています。しかし、国が違えば著作権に関するルールも異なります。独立系クリエイターの皆様が、グローバルな活動を行う上で直面する可能性のある、海外における音楽著作権の課題について、基本的な国際ルールと実践的な注意点を解説します。

国際的な音楽著作権の基本的な枠組み

音楽著作権は、原則として作品が利用される国(利用地)の法律に基づいて保護されます。例えば、日本のクリエイターが制作した楽曲がアメリカで利用される場合、原則としてアメリカの著作権法が適用されます。

しかし、世界には著作権に関する複数の国際条約が存在し、これにより加盟国間である程度の共通認識や相互保護が図られています。特に重要なのがベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)です。日本を含む多くの国がこの条約に加盟しており、ベルヌ条約の下では、加盟国国民の著作物は、他の加盟国においてもその国の国民の著作物と同様に保護されるという「内国民待遇の原則」が定められています。

これにより、日本のクリエイターがベルヌ条約加盟国で制作した楽曲は、他の加盟国においても著作権による保護を受けられます。逆に、海外のクリエイターが制作した楽曲も、日本国内では日本の著作権法によって保護されることになります。

ただし、ベルヌ条約は著作権保護の最低基準を定めるものであり、具体的な権利の内容や保護期間などは各国の国内法に委ねられています。そのため、国によって細部が異なる点には注意が必要です。

海外の楽曲を自身のコンテンツに利用する場合の注意点

海外の楽曲を自身の動画のBGMとして使用したり、カバー演奏を公開したりする場合、その楽曲の著作権は利用される国(多くの場合、動画がアップロードされるプラットフォームの規約に基づく適用法)およびその楽曲の権利者が拠点を置く国の法律が関係してきます。

1. 利用許諾の取得が原則必要

海外の楽曲であっても、著作権で保護されている限り、著作権者に無断で利用することは著作権侵害となる可能性があります。利用する際には、原則として著作権者またはその権利を管理する組織から許諾(ライセンス)を得る必要があります。

2. 権利者を探す難しさ

海外の楽曲の場合、誰が権利者であるか、またはどの著作権管理団体が権利を管理しているかを探すことが難しい場合があります。国際的な音楽出版社のデータベースや、各国の著作権管理団体(例えばアメリカのASCAP, BMI, SESACなど)の情報を調べる必要があるかもしれません。

3. プラットフォームのライセンス契約

YouTubeなどの動画配信プラットフォームは、多くの音楽著作権管理団体や権利者と包括的なライセンス契約を結んでいる場合があります。この契約の範囲内であれば、ユーザーが特定の楽曲を動画に使用することが許可され、収益の一部が権利者に分配される仕組み(例:YouTube Content IDシステム)が機能します。しかし、全ての楽曲がこの仕組みでカバーされているわけではありません。特定の楽曲や、広告収益化を伴う利用、商用利用などでは別途許諾が必要になるケースもあります。プラットフォームの利用規約やヘルプ情報をよく確認することが重要です。

4. 国ごとのローカルルール

一部の国では、特定の種類の利用(例:教育目的、フェアユースなど)について著作権制限規定が設けられている場合がありますが、その適用範囲や要件は国によって大きく異なります。安易な判断は避け、利用を検討している国の著作権法に詳しい専門家に相談することが最も安全です。

自身の楽曲を海外で利用・配信する場合の注意点

制作した楽曲をデジタル配信サービスを通じて世界中に配信したり、海外のクリエイターが自身の楽曲を利用したいと申し出てきたりする場合も、著作権に関する考慮が必要です。

1. 国際条約による保護

前述のベルヌ条約などにより、多くの国であなたの楽曲は自動的に著作権による保護を受けます。特別な手続きは不要ですが、万が一のトラブルに備え、自身の著作物であることを証明できる状態にしておくことが望ましいです(例えば、楽曲の創作日時を記録しておくなど)。

2. 海外での権利管理

デジタル配信の場合、通常は利用する配信サービスやディストリビューターが、収益の分配に必要な報告・送金を行います。しかし、海外での著作権料(演奏権、録音権など)の徴収や管理をより広範に行いたい場合、日本の著作権管理団体(例:JASRAC, NexTone)を通じて、海外の提携著作権管理団体に管理を委託する、あるいは海外の音楽出版社(サブパブリッシャー)と契約を結ぶといった方法があります。これにより、海外での放送、演奏、複製などからの収益を徴収することが可能になります。

3. デジタル配信プラットフォームの規約

各デジタル配信プラットフォーム(Spotify, Apple Music, Bandcampなど)の利用規約をよく理解することが重要です。これらの規約には、楽曲の権利帰属、収益分配率、配信地域などが詳細に定められています。収益化の仕組みや、著作権者への報告・支払いの流れについても確認しておきましょう。

4. 契約締結時の注意

海外の音楽出版社やクリエイターから楽曲の利用や共同制作の申し出があった場合、必ず契約書を交わすようにしてください。契約書には、利用範囲、期間、地域、対価、権利帰属、準拠法(どの国の法律を適用するか)などを明確に定める必要があります。国際契約には特有の難しさがあるため、可能な限り国際取引に詳しい弁護士等の専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

まとめ:グローバルな活動における著作権の重要性

海外での音楽利用や自身の楽曲の海外展開は、活動の幅を広げる素晴らしい機会です。しかし同時に、国境を越えることで著作権に関する考慮事項が増え、手続きが複雑になる可能性があります。

海外の楽曲を利用する際は、安易な判断はせず、必ず権利処理の方法を確認しましょう。プラットフォームの規約に頼りすぎず、必要に応じて権利者や管理団体への問い合わせを検討してください。自身の楽曲を海外で展開する際は、国際条約による保護を理解した上で、効果的な権利管理や収益回収の方法を探ることが重要です。

不確かな場合は、各国の著作権管理団体や、国際的な著作権法に詳しい専門家への相談をためらわないことが、トラブルを未然に防ぎ、安心してグローバルな活動を続けるための鍵となります。