音楽クリエイターのための著作権侵害対応ガイド:警告から削除請求まで
著作権侵害とは:クリエイターが直面するリスク
デジタル技術の発展により、音楽作品をインターネット上で容易に公開・共有できるようになりました。これはクリエイターにとって多くの機会をもたらす一方で、自身の作品が意図せず、あるいは悪意をもって無断で利用される、いわゆる著作権侵害のリスクも高まっています。
ご自身の楽曲や歌詞、編曲などが許可なく複製され、インターネット上で公開されたり、動画や他の作品に無断で使用されたりするケースは少なくありません。このような状況に直面した際、どのように対応すれば良いのかを知っておくことは、自身の権利を守る上で非常に重要です。
本記事では、音楽クリエイターが自身の著作権が侵害された疑いがある場合に、自身で行える基本的な対応策について、具体的なステップを追って解説します。
著作権侵害の発見と最初のステップ:証拠の保全
著作権侵害の疑いがある利用を発見した場合、まず最も重要なのは「証拠を保全すること」です。侵害の事実を証明できなければ、その後のいかなる対応も困難になるためです。
具体的には、以下のような情報を可能な限り収集し、記録しておきます。
- 侵害されている作品が掲載されている場所(URL): ウェブサイト、動画サイト、SNS、ファイル共有サービスなど、正確なURLを記録します。
- 侵害されている作品の内容: スクリーンショットや画面録画機能を使って、侵害部分が明確に分かるように保存します。特に、ご自身の作品と侵害物の比較ができるように、両方の情報を一緒に記録すると効果的です。
- 公開された日時: そのページがいつ公開されたか、更新されたかなどの情報も記録しておくと、時系列の証明に役立ちます。
- 利用者の情報: 可能であれば、利用者のアカウント名、ユーザーID、連絡先などの情報を記録します。
- 侵害の具体的な態様: どのようにご自身の作品が利用されているか(例:楽曲の全部または一部が無断で使用されている、歌詞がそのまま転載されている、編曲が複製されているなど)を具体的にメモしておきます。
これらの証拠は、後の警告やプラットフォームへの削除申請、さらには法的な手続きを検討する上で不可欠となります。改変される前の状態を確実に記録することが重要です。
著作権侵害への対応策:段階的なアプローチ
証拠を保全したら、次に対応を検討します。対応方法は、侵害の悪質性、相手方との関係性、ご自身の希望などによって異なりますが、一般的には段階的に進めることが多いです。
1. 非公式な連絡
相手方の連絡先が分かる場合(SNSのDMやウェブサイトのお問い合わせフォームなど)、まずは非公式な形で連絡を取り、利用の停止や削除を求める方法です。
- 伝えるべき内容: ご自身の作品であること、無断利用であること、それが著作権侵害にあたること、削除を求めること、削除期限などを明確に伝えます。
- 注意点: 感情的にならず、冷静かつ丁寧な言葉遣いを心がけます。ただし、この段階での連絡は相手に証拠隠滅の機会を与える可能性もあるため、慎重に判断する必要があります。
2. 警告状の送付
非公式な連絡に応じない場合や、より強い姿勢を示す必要がある場合は、書面で警告状を送付することを検討します。内容証明郵便を利用すると、送付した文書の内容と日付、相手方に到達した事実を公的に証明できるため有効です。
- 警告状に記載すべき主な内容:
- 差出人(著作権者)の情報
- 相手方の情報(分かる範囲で)
- 著作権侵害の事実(いつ、どこで、どのように侵害されているか、保全した証拠の特定など)
- 侵害行為の法的根拠(著作権法第〇条の侵害にあたる、など)
- 要求事項(侵害物の削除、今後の利用停止など)
- 要求に応じない場合の対応(法的措置を検討する可能性など)
- 回答期限
警告状の作成には専門的な知識が必要となる場合があり、弁護士に相談・依頼することも一般的です。
3. プラットフォームへの削除請求(テイクダウン申請)
多くのオンラインプラットフォーム(YouTube、ニコニコ動画、各種SNS、ブログサービスなど)は、著作権侵害に対応するための窓口や手続き(テイクダウン申請、著作権侵害申し立てなど)を設けています。これは、プロバイダ責任制限法などに基づき、サイト管理者が違法な情報流通に関与した場合に法的責任を問われる可能性があるためです。
- 手続きの概要: プラットフォームが提供するフォームや手順に従い、著作権者であること、侵害されているコンテンツの場所、侵害内容、ご自身の作品の特定などを記載して申請します。
- メリット: 裁判などの法的手続きに比べて簡便かつ迅速に侵害コンテンツを削除できる可能性があります。
- 注意点: プラットフォームごとの規約や手続きに従う必要があります。また、プラットフォームはあくまでプラットフォーム上のコンテンツを削除するだけであり、相手方に対する損害賠償請求などは別途行う必要があります。虚偽の申請は、かえって申立人が責任を問われる可能性もあるため、必ず正確な情報に基づいて申請してください。
4. 法的措置の検討
警告やプラットフォームへの削除請求によっても問題が解決しない場合、あるいは侵害が悪質である場合は、法的な措置を検討することになります。
- 主な法的措置:
- 差止請求: 裁判所に申立てを行い、侵害行為を停止させること、将来の侵害を予防することなどを求める手続きです。
- 損害賠償請求: 侵害によって被った損害(機会損失、信用の低下など)について、相手方に賠償を求める手続きです。
- 謝罪広告掲載請求: 著作権者の名誉や声望が侵害された場合に、謝罪広告の掲載などを求める手続きです(差止請求や損害賠償請求と併せて行われることが多いです)。
これらの法的手続きは専門性が高く、時間と費用がかかる傾向があります。弁護士などの専門家と相談しながら進めることが不可欠です。また、相手方の特定が困難な場合は、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を行うことも検討されますが、これも専門的な手続きとなります。
まとめと今後のために
ご自身の音楽作品が著作権侵害された場合の対応は、証拠保全から始まり、非公式な連絡、警告状、プラットフォームへの削除請求、さらには法的手続きへと段階的に進めることが一般的です。プラットフォームの削除請求は比較的容易に利用できる手段ですが、状況に応じて弁護士などの専門家に相談することが、複雑なケースや深刻な被害に対応するために重要です。
最も良いのは、著作権侵害を未然に防ぐための対策を講じることですが、完全に防ぐことは難しいのが現状です。いざという時に慌てないよう、日頃からご自身の作品の利用状況に注意を払い、著作権に関する知識を深めておくことが、独立系クリエイターとして活動していく上で非常に役立つでしょう。