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音楽の権利クリアランス入門:独立系クリエイターが知っておくべき手続きと注意点

Tags: 音楽著作権, 権利クリアランス, 利用許諾, 著作隣接権, クリエイター

音楽の権利クリアランスとは何か? クリエイターが無断利用のリスクを避けるために

インターネットを通じて自身の音楽作品を発表したり、動画コンテンツにBGMとして既存の楽曲を使用したりする独立系クリエイターの皆様にとって、音楽の著作権に関する知識は避けて通れないテーマです。中でも、「権利クリアランス」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

権利クリアランスとは、利用したい音楽作品に含まれる様々な権利(著作権や著作隣接権など)を持つ権利者全員から、利用目的に応じた許諾を得る一連の手続きを指します。単に「著作権の利用許諾を得る」ことと似ていますが、音楽作品には複数の権利が複雑に関わっているため、それら全てに対して適切な手続きを行う必要がある点が権利クリアランスの重要なポイントとなります。

この手続きを怠ると、著作権侵害となり、作品の削除、損害賠償請求、さらには法的な措置に直面するリスクがあります。特に、自身の作品を収益化したり、広く配布したりする場合、権利クリアランスの重要性はさらに増します。

この記事では、独立系クリエイターの皆様が音楽の権利クリアランスについて理解し、適法な形で音楽を利用できるよう、その基本的な考え方、関わる権利の種類、具体的な手続きの流れ、そして注意すべき点について分かりやすく解説します。

音楽作品に関わる主な権利の種類

音楽作品を利用する際に権利クリアランスが必要となるのは、一つの音楽作品に複数の権利が存在し、それぞれ異なる権利者がいる場合があるためです。主に以下の権利が関わってきます。

  1. 著作権:

    • 楽曲の著作権: 歌詞とメロディ(曲)に関する権利です。作詞家と作曲家がそれぞれ著作権者となります。この権利は、作品の複製(コピー)、演奏、歌唱、公衆送信(配信、放送)、展示などの利用を許諾または禁止する権利を含みます。日本の多くの楽曲の場合、これらの権利管理はJASRACやNexToneといった著作権等管理事業者が行っています。
    • 編曲の著作権: 原曲を編曲した場合、その編曲にも著作権が発生することがあります。編曲家が著作権者となります。
  2. 著作隣接権: 著作隣接権は、著作物を公衆に伝達する上で重要な役割を果たす者に与えられる権利です。音楽分野では主に以下の権利が含まれます。

    • 実演家権: 楽曲を歌ったり演奏したりした「実演家」(歌手、演奏家など)に与えられる権利です。自分の実演が録音・録画されたり、放送・有線放送されたりする際に許諾を与える権利などが含まれます。
    • レコード製作者権(原盤権): 実演を録音した音源(レコード、CD、デジタルファイルなど)を制作した「レコード製作者」(レコード会社など)に与えられる権利です。この音源を複製したり、公衆送信したりする際に許諾を与える権利などが含まれます。私たちが普段耳にする「音源」そのものに関する権利と考えると分かりやすいでしょう。

権利クリアランスとは、これらの「楽曲の著作権」「実演家権」「レコード製作者権」といった複数の権利について、利用目的に応じて必要な全ての権利者から個別に、またはまとめて許諾を得るプロセス全体を指します。

権利クリアランスの具体的な手続きの流れ

音楽作品の権利クリアランスは、利用したい楽曲や利用方法によって手続きが異なりますが、一般的な流れは以下のようになります。

  1. 利用したい音楽作品の特定:

    • 具体的にどの楽曲の、どの音源を利用したいのかを明確にします。楽曲名、作詞者、作曲者、歌手名、収録されているCDや配信音源などの情報を特定することが第一歩です。特に「音源」は重要です。同じ楽曲でも、歌っている人や演奏している音源が異なれば、関わる実演家権やレコード製作者権も異なります。
  2. 必要な権利の特定:

    • 自身の利用方法(例:YouTube動画のBGMとして使用、オリジナル曲にサンプリングとして組み込む、カバーして配信販売するなど)を考慮し、どの権利(楽曲の著作権、実演家権、原盤権など)の許諾が必要か判断します。例えば、市販の音源をそのままBGMとして使う場合は、楽曲の著作権と原盤権の両方の許諾が必要になることが一般的です。自分でカバー演奏して録音した音源を使う場合は、楽曲の著作権と、自身の新しい音源に対する実演家権・レコード製作者権(自身が権利者)の考慮が必要となります。
  3. 権利者の特定:

    • 特定した権利について、誰が権利を持っているか(管理しているか)を調べます。
      • 楽曲の著作権: JASRACやNexToneの作品検索データベースなどで検索できます。管理団体が管理していない場合は、出版社や個人の著作権者に直接連絡する必要があります。
      • 実演家権・レコード製作者権(原盤権): 音楽出版社、レコード会社、芸能事務所などが権利を保有していることが多いです。音源が収録されているCDのクレジット表記や、音楽配信サイトの情報を参考に調査します。
  4. 許諾申請と交渉:

    • 特定した各権利者に対して、利用目的、利用媒体(YouTube、特定のイベントなど)、利用期間、利用範囲などを具体的に記載した許諾申請を行います。
    • 権利者によっては、利用規約がウェブサイトに掲載されている場合や、専用の申請フォームを用意している場合もあります。
    • 申請に対し、権利者から許諾条件(利用料、表示方法、利用範囲の制限など)が提示されるため、内容を確認し、必要に応じて交渉を行います。
  5. 契約締結:

    • 許諾条件に合意した場合、権利者との間で利用許諾契約を締結します。口頭での約束は後々のトラブルの原因となる可能性があるため、利用条件、利用料、支払い方法、期間などが明記された書面(電子契約含む)での契約が非常に重要です。
  6. 利用の実施と管理:

    • 契約内容に従って音楽を利用します。契約で定められた表示義務(著作権者名や管理団体名の記載など)があれば、これを行います。また、契約期間や利用範囲を守り、必要に応じて契約更新の手続きを行います。

クリエイターが直面しうる具体的なケースと注意点

独立系クリエイターの皆様が権利クリアランスに関して特に注意すべき具体的なケースをいくつかご紹介します。

トラブルを避けるための実践的アドバイス

権利クリアランスは複雑で手間がかかりますが、適法に活動するためには避けて通れません。以下の点に注意し、トラブルを未然に防ぎましょう。

まとめ

音楽の権利クリアランスは、多様な権利が関わる複雑な手続きですが、独立系クリエイターの皆様が適法に、安心して音楽活動やコンテンツ制作を行うためには不可欠なプロセスです。利用したい音楽作品に含まれる権利を正しく理解し、必要な権利者から適切な許諾を得るための手続きを丁寧に行うことが、無用なトラブルを避け、クリエイターとしての信頼性を高めることに繋がります。

この記事で解説した基本的な知識と手続きの流れを参考に、ご自身の活動における権利クリアランスについて改めてご確認いただければ幸いです。法的な判断や複雑なケースについては、専門家にご相談されることをお勧めいたします。