パブリックドメイン音楽の活用:著作権保護期間が切れた楽曲を使うルール
独立系のミュージシャンや動画クリエイターの皆様の中には、「あの有名なクラシック曲を動画に使いたい」「古い時代の楽曲をアレンジして発表したい」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。楽曲の中には、著作権の保護期間が満了し、誰でも自由に利用できる「パブリックドメイン」となっているものがあります。
しかし、パブリックドメインの楽曲だからといって、何も気にせず自由に使えるわけではありません。利用方法によっては思わぬ落とし穴があることも事実です。この記事では、パブリックドメインの音楽を適切に活用するために知っておくべき基本的なルールと注意点について解説します。
著作権保護期間とは?パブリックドメインの基本的な考え方
まず、著作権の保護期間について理解することが重要です。日本の著作権法では、原則として著作権は著作物の創作時に発生し、著作者の死後70年を経過するまで存続します。ただし、無名の著作物や団体名義の著作物、映画の著作物など、例外的な保護期間が定められている場合もあります。
この保護期間が満了した著作物は、著作権が消滅し、一般的に「パブリックドメイン(Public Domain, PD)」となります。パブリックドメインとなった著作物は、著作権法による利用許諾の仕組みから解放され、原則として著作権者の許可なく自由に利用、複製、改変などを行うことができるようになります。
パブリックドメイン楽曲利用の基本的なメリット
著作権が消滅しパブリックドメインとなった楽曲を利用する最大のメリットは、その楽曲の「著作権」に関して、原則として著作権者からの利用許諾を得る必要がない点です。これにより、利用料を支払うことなく、作品に取り入れることが可能になります。これは、特に予算が限られている独立系クリエイターにとって大きな利点と言えるでしょう。
パブリックドメイン楽曲利用における「落とし穴」と注意点
パブリックドメインとなった楽曲は、著作権そのものは消滅していますが、利用する際にはいくつか注意すべき点があります。これらの点を理解しておかないと、後々トラブルになる可能性があります。
1. 著作権以外の権利に注意する
楽曲の著作権が消滅してパブリックドメインになっても、それに関連する「著作隣接権」やその他の権利が存在する場合があります。
- 著作隣接権: これは、実演家(演奏家や歌手)、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に与えられる権利です。例えば、あるクラシック曲の著作権がパブリックドメインになっていても、その曲を特定のオーケストラが演奏し、レコード会社が録音した「特定の音源」には、実演家やレコード製作者の著作隣接権が存在する可能性が非常に高いです。この「特定の音源」をそのまま利用(動画のBGMとして使うなど)する場合、著作権はクリアできても、著作隣接権者の許諾が必要になります。パブリックドメインの楽曲を利用したい場合は、楽譜などから自分で演奏・録音するか、著作隣接権もクリアされている音源(例:著作権・著作隣接権フリーを謳うサービス提供の音源、自分で演奏・録音した音源)を使用する必要があります。
- 編曲などの二次的著作物の著作権: パブリックドメインの楽曲を元に、誰かが新しく編曲した場合、その「編曲」自体に新たな著作権が発生します。パブリックドメインの楽曲の「ある編曲版」を利用したい場合は、その編曲の著作権者に許諾が必要になる場合があります。
- 著作者人格権: 著作権(財産権)が消滅しても、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権など)は著作者一身の権利とされ、消滅しないと解釈されることもあります。特に、著名なクラシック曲などを大きく改変して利用する場合、たとえ著作権が消滅していても、著作者の意を著しく損なうような利用は避けるなど、道義的な配慮が必要となる場合があります。
2. 保護期間は国によって異なる
著作権の保護期間は、国によって異なります。日本の著作権法に基づいてパブリックドメインと判断した楽曲であっても、海外で利用する場合には、その国の著作権法が適用され、まだ保護期間が満了していないということもあり得ます。国際的な活動を行うクリエイターは注意が必要です。
3. 楽曲の確認は慎重に
本当にパブリックドメインであるかどうかを正確に判断することは、必ずしも容易ではありません。著作者の没年や、著作物の公表年などを正確に調査する必要があります。曖昧なまま利用すると、実はまだ保護期間中であったというリスクがあります。著作権管理団体に問い合わせる、信頼できる情報源を確認するなど、可能な範囲で慎重な確認を行うことが望ましいでしょう。
パブリックドメイン楽曲の具体的な活用と実践的アドバイス
- 動画BGMとして利用: パブリックドメインの楽曲をBGMに使いたい場合、最も安全なのは、その楽曲の楽譜などを入手し、自分で演奏・録音した音源を使用することです。自分で演奏できない場合は、著作権だけでなく著作隣接権もクリアされている、いわゆる「著作権フリー音源」として配布されているパブリックドメイン楽曲の音源を探して利用することを検討してください。
- カバーやアレンジ: パブリックドメインの楽曲をカバーしたりアレンジしたりすることは、原則として自由に行えます。ただし、上記で述べたように、オリジナルの著作者人格権に配慮したり、もし特定の編曲版を利用するならその編曲の著作権に注意したりする必要があります。ご自身で新しく編曲した場合は、その編曲に対して著作権が発生します。
- 商用利用: パブリックドメインの楽曲自体は、原則として商用利用も自由です。しかし、利用する「音源」に著作隣接権がある場合は、その音源の商用利用には別途許諾が必要になります。
まとめ
パブリックドメインの音楽は、クリエイターにとって魅力的な素材となり得ます。しかし、著作権保護期間が満了していることだけを確認して安易に利用するのは危険が伴います。特に、利用したい「特定の音源」には著作隣接権が存在する可能性が高い点、また、編曲されたものには別途著作権が発生する可能性がある点には十分注意が必要です。
パブリックドメイン楽曲を活用する際は、著作権以外の権利も存在することを理解し、利用したい楽曲や音源が本当に自由に使える状態であるかを慎重に判断することが重要です。不明な点がある場合は、著作権管理団体や法律の専門家に相談することをお勧めします。
デジタル化が進む現代において、古い楽曲も新たな形で活用されています。パブリックドメインの知識を正しく身につけ、ルールを守りながら創造的な活動にお役立ていただければ幸いです。