Webサイトやブログに音楽を掲載する際の著作権ルール:BGM、埋め込み、オリジナル曲の注意点
はじめに
現代の独立系クリエイターの活動は、自身のWebサイトやブログを中心に行われることも多くあります。作品の公開、ポートフォリオの展示、情報発信など、様々な目的でWebサイトやブログが活用されています。その中で、サイトの雰囲気を演出するためにBGMを流したり、自身の楽曲や紹介したい音楽を掲載したりすることも少なくありません。
しかし、Webサイトやブログに音楽を掲載する際には、著作権に関して注意すべき点が多々存在します。安易な利用は著作権侵害となる可能性があり、思わぬトラブルに発展することもあり得ます。この記事では、Webサイトやブログで音楽を利用する際にクリエイターが知っておくべき著作権の基本的なルールと、ケースごとの具体的な注意点について解説します。
Webサイト・ブログで音楽を利用する際の基本的な著作権の考え方
まず、Webサイトやブログにおける音楽の利用が、著作権法上どのように扱われるのかを理解することが重要です。
音楽の著作物には、作曲家や作詞家が持つ「著作権」があります。また、楽曲を演奏した実演家には「著作隣接権」(実演家の権利)、レコード製作者には「著作隣接権」(レコード製作者の権利)があります。これらの権利者は、自身の著作物や実演、レコードについて、無断で複製されたり、公衆に送信(インターネットを通じて提供することなど)されたりすることを禁じる権利を持っています。
Webサイトやブログで音楽を「掲載する」行為は、多くの場合、以下の著作権(または著作隣接権)に関わります。
- 複製権: 音楽ファイルをサーバーにアップロードする場合など、著作物をコピーする行為です。
- 公衆送信権: インターネットを通じて、不特定多数の人がアクセスできる状態に音楽を置く行為です。ストリーミング再生やダウンロード提供などがこれに該当します。
これらの権利は、原則として権利者のみが行える、または権利者の許諾を得た者のみが行えるものです。Webサイトやブログでの音楽利用は、「家庭内で個人的に楽しむ」といった私的利用の範囲には通常含まれません。したがって、権利者の許諾を得ずに音楽を掲載する行為は、著作権侵害となる可能性が極めて高いといえます。
ケース別の注意点
Webサイトやブログでの音楽利用にはいくつかのケースが考えられます。それぞれについて、著作権上の注意点を見ていきましょう。
1. 自身のオリジナル楽曲を掲載する場合
ご自身が作詞・作曲・演奏・録音したオリジナルの楽曲を、ご自身のWebサイトやブログで公開することは、基本的に著作権上の問題はありません。なぜなら、あなたがその楽曲の著作権者または著作隣接権者(実演家、レコード製作者)だからです。複製権や公衆送信権はご自身に帰属しています。
ただし、以下の点に注意することをお勧めします。
- 共同制作の場合: 他者と共同で楽曲を制作した場合、その楽曲の著作権は共有となります。権利の持ち分や利用範囲について、共同制作者との間で事前に明確な合意をしておくことが重要です。「音楽の共同制作における著作権の考え方と権利分配契約」の記事も参考にしてください。
- 二次利用への対策: 他者に無断でダウンロードされたり、再利用されたりする可能性もゼロではありません。著作権表示(例:「© [あなたの名前/団体名]」)をサイトや楽曲データに明記することで、自身の権利を主張し、無断利用を抑制する効果が期待できます。
2. 他者の楽曲をBGMやダウンロード提供として掲載する場合
これが最も著作権侵害のリスクが高いケースです。市販されている楽曲、他者のオリジナル楽曲、テレビや映画の音楽などを、WebサイトやブログのBGMとして自動再生したり、ダウンロード提供したりすることは、原則として権利者の許諾が必須です。
許諾が必要な権利者は、楽曲の著作権者(作曲家、作詞家)、実演家(演奏者、歌手)、レコード製作者(CDや配信音源の制作者)など多岐にわたります。
- 市販音源や有名な楽曲: これらの楽曲は通常、著作権管理団体(日本ではJASRAC、NexToneなど)によって管理されている場合が多いです。これらの団体が管理する楽曲をWebサイトで利用する際には、管理団体と利用許諾契約を結び、使用料を支払う必要があります。ただし、管理団体が管理しているのは主に著作権(作詞・作曲の権利)です。著作隣接権(実演家・レコード製作者の権利)については、別途、権利者(レコード会社など)から許諾を得る必要があります。管理団体を通じて隣接権の許諾手続きを代行している場合もありますが、必ず確認が必要です。
- 管理団体が管理していない楽曲: インディーズの楽曲や海外の楽曲など、日本の著作権管理団体が管理していない場合もあります。その場合は、楽曲の著作権者やレコード会社など、権利者本人に直接連絡を取り、個別に利用許諾を得る必要があります。これは非常に手間のかかる作業となることが多いです。
- 「フリーBGM」や「ロイヤリティフリー」音源: インターネット上には「フリーBGM」「ロイヤリティフリー音源」として提供されている音楽素材があります。これらは、提供者が定めた利用規約の範囲内であれば、比較的容易に利用できる場合があります。しかし、「フリー」や「ロイヤリティフリー」という言葉に惑わされず、必ず利用規約を隅々まで確認してください。商用利用が可能か、クレジット表示が必要か、加工の可否、利用期間の制限など、細かい条件が定められていることが一般的です。規約違反の利用は著作権侵害となります。
- Creative Commons License (CCライセンス)の楽曲: CCライセンスで公開されている楽曲も、ライセンス条件(表示義務、非営利限定、改変禁止など)を守れば利用可能です。ただし、様々な種類のCCライセンスがあり、それぞれ条件が異なります。利用する楽曲に付与されているライセンスを正確に理解し、条件を遵守することが不可欠です。「独立系クリエイターのためのクリエイティブ・コモンズ・ライセンス活用術」の記事も参考になります。
3. YouTubeなどの動画共有サイトの埋め込み機能を利用する場合
Webサイトやブログに、YouTubeなどの動画共有サイトにアップロードされている音楽動画を埋め込み機能を使って表示させるケースです。この場合、一般的に、埋め込み機能そのものを使用することについては、著作権侵害にはあたらないと解釈されています。これは、埋め込みは動画が置かれているサーバーに直接アクセスしているのではなく、あくまでリンク情報を通じて元の動画を表示させているに過ぎず、Webサイト運営者自身が動画ファイルを複製したり公衆送信したりしているわけではない、と考えられるためです。
しかし、以下の点に注意が必要です。
- 埋め込む動画が適法にアップロードされているか: 埋め込んだ動画自体が、著作権者の許諾を得ずに違法にアップロードされたものである場合、それを認識しながら埋め込む行為は、著作権侵害を助長するものとみなされ、問題となる可能性があります。埋め込みたい動画が、公式チャンネルや権利者が許可したチャンネルからアップロードされているものかを確認することが望ましいです。
- プラットフォームの利用規約: 利用する動画共有サイトの利用規約を確認してください。通常、埋め込み機能の提供自体が権利者の許諾を得て行われていると理解されています。
- サイトの目的と整合性: 埋め込み機能の利用は、あくまで元の動画コンテンツへの誘導や紹介を目的とすべきです。サイトの主なコンテンツとして、埋め込み動画だけで構成するといった不適切な利用は避けるべきでしょう。
4. カバー曲やアレンジ曲を掲載する場合
ご自身で演奏または歌唱したカバー曲や、原曲をアレンジした楽曲をWebサイトやブログで公開する場合です。
この場合、原曲の著作権が依然として存在します。したがって、原曲の著作権者(作曲家、作詞家)から利用許諾を得る必要があります。多くの場合、原曲が著作権管理団体によって管理されていれば、その管理団体を通じて許諾を得る手続きが必要になります。
さらに、ご自身の演奏や歌唱についても、それを録音・録画した場合は著作隣接権(実演家の権利、レコード製作者の権利)が発生します。ご自身の演奏・歌唱であるため、これらの権利はご自身に帰属しますが、原曲の著作権処理は別途必要である点に留意してください。
替え歌やMADなど、原曲を大きく改変したり、別の作品と組み合わせたりする行為は、著作権法上の「翻案権」に関わることが多く、原曲の著作権者の許諾が必須となります。
トラブルを防ぐための実践的なアドバイス
Webサイトやブログでの音楽利用に関する著作権トラブルを未然に防ぐために、以下の点を心がけましょう。
- 利用したい音楽の権利関係を徹底的に調べる: 誰が権利者なのか、著作権管理団体が管理しているか、フリー素材の場合は利用規約はどうなっているかなどを、必ず確認してください。情報が不明確な場合は、安易な利用は避けるべきです。
- 権利者の許諾を確実に得る: 有料の市販音源や有名な楽曲を利用したい場合は、著作権管理団体やレコード会社などに問い合わせ、正式な利用許諾契約を結んでください。フリー音源やCCライセンス音源の場合は、規約を遵守することが許諾の代わりとなります。
- 利用規約やライセンス条件を遵守する: フリー音源やCCライセンス音源を利用する場合は、定められた利用範囲、クレジット表示の要否、加工の可否などの条件を厳守してください。
- 不明な場合は利用しない、または専門家に相談する: 著作権に関する判断は複雑な場合があります。権利関係が曖昧な場合や、利用方法が規約に抵触しないか不安な場合は、その音楽の利用を諦めるか、著作権の専門家(弁護士や弁理士など)に相談することを強くお勧めします。
- 自身のオリジナル曲には著作権表示を推奨: 自身の楽曲を公開する際は、「© [あなたの名前/団体名] [公開年]」といった著作権表示を明記することで、権利を主張しやすくなります。
まとめ
Webサイトやブログは、独立系クリエイターにとって重要な表現・発信の場です。魅力的なサイトを作るために音楽を活用したいと考えるのは自然なことでしょう。しかし、インターネット上で音楽を利用する際には、常に著作権への深い理解と配慮が求められます。
他者の著作物を利用する際は、必ず権利者の許諾を得るか、適法に利用可能なライセンス(フリー音源の規約、CCライセンスなど)の条件を遵守することが不可欠です。特に、安易なBGM利用やダウンロード提供は、著作権侵害のリスクが非常に高い行為であることを認識してください。
著作権に関する知識を正しく持ち、責任ある方法で音楽を活用することが、安全で持続可能なクリエイター活動につながります。不明な点があれば、専門家への相談も検討し、トラブルなく音楽をサイト運営に活かしてください。